イベント情報(2021年12月15日更新)

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第二回 臨床美術士会 座談会 テーマ「子どもと臨床美術」

 
 

菅原:臨床美術は、認知症の方を対象に始まりましたが、今では子どもから社会人、高齢者まで幅広く実施されています。今回は「子ども」を対象に現場を実施している会員3名の方に参加していただきます。よろしくお願いいたします。

 

菅原:なぜ子どもを対象にした臨床美術を始めようと思ったのですか。

播磨:初め子ども達への実施は考えていませんでした。しかし、高齢者のデイサービスで臨床美術をしていた時に、アートになじみがない方や苦手な方も、集中して取り組まれ喜ばれる姿を見て、低年齢の子ども達にも楽しんでもらえるのではないかと思って始めました。

豊田:私は子どもに関わることをしたいと思い、考えていたところ、新聞で臨床美術の通信講座の広告を見たのがきっかけです。そこには、認知症の方だけでなく、発達の気になるお子さんへも効果的で、子どものケアにいいという風に書いてありました。絵は元々好きだったので、作業療法以外の違うアプロ―チができたらいいなと思って受講を決めました。

福井:私は長年看護師をしていて看護師教育に携わる中で、人と接する仕事である看護師に一番大事なことは≪感性≫だと感じています。一方的に教え訓練をしても、結局看護師に必要なことは≪感じる心≫なんです。その≪感じる心≫をどう育成できるかが課題でしたが、退職前に届いたダイレクトメールの中の1つに臨床美術の知らせがあり、退職後の自分の役割として≪感じる心≫の育成を担えたらいいなと思って子どもたちの教室を始めました。

菅原:実際始めてみていかがでしたか。

豊田:元々あまり喋らない子なのですが、来る前は固い表情だったのが帰るときには笑顔で手を振ってくれて、次の教室も来てくれます。彼女にとってはお母さんと一緒に過ごしている時間が大切なんだろうなと感じられるので、これからも続けていきたいと思っています。また、育児サークルで親子一緒に臨床美術を実施した時に、お母さんから、今まで見ことがない、いきいきとした子どもの表情を間近に見ることができたと言われて感動しました。

菅原:お母さんも一緒にというのがいいですよね。

豊田:声をかけるのですが、遠慮されるお母さんにこそ、是非一緒にやっていただけると子どもたちも嬉しいと思います。

菅原:お母さんが横で喜んでいる姿を見ると、子どもも嬉しいですよね。

豊田:相乗効果ですね。

菅原:福井さんは実際にやってみていかがですか。

福井:印象的な事例の一つに、不登校の中学生に2年半の間、月1回臨床美術をしていたところ、その子が今は高校生になり学校生活を楽しむようになったというのがあります。もちろん本人の力もあるのですが、やはりセッションの持つ力が大きいと思います。1対1でやっている時はほとんど変化がなかったのですが、1人、2人と参加者が増えたことで、急激にその子が心を開示し始めました。それに加えて、学校みたいな決まりがなく、嫌ではない環境でやることが魅力的だったのかなと思います。教室の場所には犬がいて癒されるし、セッション後、ブラックコーヒーを飲めるようになったことで、自分が大人になったと感じステップアップできたと実感できたのでしょう。

菅原:安心できる場があったということで、自己表現できるようになったという事例でしょうね。

福井:ある時からお母さんも一緒に参加するようになったら、その子が飛躍的に自立したというか。年齢もあると思うのですが。中学1年生の冬から来て、今高校1年生です。

菅原:他の方も参加されたのでしょうか。

福井:お母さんがお母さんの友達を連れてきて、その友達が自分の娘や兄弟や自分の友人まで連れてきて、小さなコミュニティができました。そこで楽しい時間を過ごせることがその子にとって良かったのかなと感じました。

菅原:臨床美術の良さはコミュニティですよね。

福井:そうなんですよ。1対1の時間が長かったのですが、嫌がらないで来てくれたのも良かったですね。やはり、お母さんが作品を見て涙ながらに喜ばれるので、それがその子の励みになったのでしょうね。

菅原:感動しました。播磨さんは、実際にされてみていかがですか。

播磨:私のところは、0歳から学童期ぐらいまでの子どもさんが対象です。幼い子どもさんが自分でしっかり筆を握りこんで、じっくり真剣に作品に取組む姿を見ていると、ぐっと胸にくるものがあります。子どももやっているうちに気持ちが動いて手が動いていく。子ども達が思いっきり楽しめて自分の心を満たすことができたら良いなと思ってやっています。鑑賞会では作品を誇らしげに見せてくれる子もいれば、照れて部屋の端っこまで逃げる子もいます。逃げても、ずっとこっちの方を見て話を聞いています。その子どもたちの顔がすごく輝いているんです。満足気な顔を見るとやりがいや喜びを感じます。

菅原:子ども達の表情や教室に通ってきてからの変化が、私達のやりがいや原動力につながっているということですね。

 

菅原:「臨床美術」と「一般の絵画教室」とは何が違うのかを知りたい方もいらっしゃると思います。その点、違いはどうですか。

福井:私の教室はパステルもやっています。パステルを習わせたいというお母さんも結構いらっしゃいますが、パステル教室だけというのはしていません。感性を大切にしているので、まずは絵を描く前の段階の「臨床美術」に入っていただいて、その後にパステルのお稽古をセットでやっています。「臨床美術」は絵の教室ではなく、絵を描く前の心とか感性を育成する教室なので、絵だけではなくいろんなことを学んでいけるような教室ということを伝えています。

菅原:豊田さんは実際どうですか。

豊田:「臨床美術」は答えがない、正解がないものだと思います。色を選ぶ時に正しい色か間違っていない色かを確認する子どもがいるというのを聞きました。不安が強い子は正しい色を選びたがります。どの色でもいいんだよと言っていても、自信がもてないから人に聞いてその色を選んでしまいます。それを全部取っ払って、合っている、間違っているというような、そういう絵ではないと答えてくれるのが「臨床美術」だと思います。お母さん達には完成した作品自体がアートなのではなく、描いているこの時間や全ての過程が「臨床美術」と説明しています。

菅原:播磨さんは、いかがですか。

播磨:意外と子どもはお母さんの反応に敏感です。お母さんは周りの反応に敏感かなと感じます。

臨床美術は、皆違って皆いいのだから上手下手はありません。全部受け止めてもらえることでお母さんと子どもの安心感に繋がり、安心して描けるということに繋がると思います。鑑賞会でお友達と作品を認め合うことで、自分はこんなにすごいのが描けたよと、自信もつくし、お友達もすごいねといって声を掛け合うことができる。親御さん同士も、○○ちゃんの作品もすごいねと、認め合える関係があります。そこが普通の絵画教室とは違うところだと思います。

菅原:つい比較してしまいがちですが、競争の美術ではなくて「共生の美術」というところが特徴ですね。

菅原:最後に、これからの目標をお伺いします。

豊田:子どもだけでなく親も一緒に参加してほしいと思います。大人もストレス解消になりますので、絵は苦手で描かないという方も多いのですが、ちょっと解放しに来ませんか?と呼びかけたいです。今後は不登校ぎみのお子さんにも、声をかけてやっていきたいと思っています。

播磨:ここ何年か夏休みにOB会をやっています。学童期に入った子ども達と接しながら、乳幼児の心の土台づくりが大事だと感じています。心を満たす時間やよい思い出をいっぱいつくってもらいたい。そうやって心の栄養をためてもらって、学童期に入っていけるようにしたい。子ども達が、どう大人になっていくのかを考えやっていきたいなと思います。

福井:私は現在2つの看護学校で講座をしていますが、認知症のフォローの1つとして臨床美術の考え方を大学や看護学校の中でもっと広めていきたい。それから、障がい児、医療ケア児の子ども達、動けない子ども達へ、こちらから出向いて臨床美術をやりたい。自分の今までの経験が活かせて、お母さんのケアにもなると思います。

菅原:素晴らしい。(拍手)

福井:子どもの貧困問題とか、経済的なこととか、いろんな問題があるとは思いますが、地道に活動を続けて、少し足がかりをつけてしていきたいなと思います。

菅原:是非、頑張っていただきたいですね。 臨床美術士としてこれまでの経験を活かしながら、子ども達へできることはまだまだたくさんあると思います。多くの子ども達へ「臨床美術」を届けられるように、努力したいと改めて思いました。皆さん今日はお集まりいただきありがとうございました。 



第二回 FCAT座談会参加者のプロフィール

インタビュアー

インタビュアー/菅原 良子(すがはら りょうこ〉
・臨床美術士 4級
・所在地:福岡県久留米市
・活動地域:久留米市内、福岡市内他
・福岡臨床美術士会会長(2021年12月現在)


福井道子
(ふくいみちこ)
・臨床美術士 4級
・所在地:福岡県北九州市
・活動地域:
北九州市内
アトリエ・クリニカルアートFUKUI
             介護老人保健施設
             障がい者福祉施設
看護学校  等

【連絡先】
クリニカルアートFUKUI(北九州市)
HP

播磨一美
(はりまかずみ)
・臨床美術士 4級
・所在地:福岡県北九州市
・活動地域:
アトリエ アートの時間
育児サークル
カフェ
コミュニティスペース 等

【連絡先】
Instagram;
harihari55hari55
Instagram

豊田敬美
(とよたよしみ)
・臨床美術士 4級
・所在地:福岡県福岡市
・活動地域:
福岡市東区内
育児サークル 等

【連絡先】
メール

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